肉離れを筋肉が損傷・修復される仕組みから解説
肉離れはどのように起こり、どのように治るのか
肉離れは、筋肉に急激な負荷が加わることで筋組織が損傷するけがであり、筋線維の微細な損傷から部分断裂、完全断裂まで、その程度はさまざまです。
スポーツ活動中にも多くみられますが、日常生活動作をきっかけとして起こることもあり、当院にもこうした肉離れの相談で来院される患者様は少なくありません。
多くの肉離れは時間の経過とともに修復されていきますが、大切なのは単に「治ること」だけではなく、損傷した筋肉がどのような状態で修復されていくかです。
そのため、適切な治療を考えるには、肉離れがどのように起こり、筋肉がどのように損傷し、その後どのような過程を経て回復していくのかを理解することが大切です。
そこで本稿では、肉離れが起こる原因や症状、筋肉が修復されていく仕組みを順に整理しながら、肉離れの治療では何が大切になるのかについて解説します。

筋肉は縮むときだけ力を発揮するわけではない
筋肉というと縮むことで力を発揮するイメージがあるかもしれません。しかし、実際には縮むときだけでなく、長さを保っているときや引き伸ばされているときにも力を発揮しています。
筋肉が力を発揮するときの状態は、主に次の3つに分けられます。
✓ 求心性収縮:筋肉が縮みながら力を発揮する
✓ 等尺性収縮:筋肉の長さを保ちながら力を発揮する
✓ 遠心性収縮:筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する

肉離れは筋肉が伸ばされながら力を発揮するときに発生しやすい
筋肉が力を発揮するときには上述のように3つの状態がありますが、中でも、引き伸ばされながら力を発揮する遠心性収縮では筋が伸長されながら大きな張力を発揮することができます。
例えばダッシュ動作では、足が地面につく直前に太ももの裏側にあるハムストリングスが大きく引き伸ばされた状態で強い力を発揮するため、遠心性収縮による負荷が大きくなります。
このように筋肉が引き伸ばされながら大きな張力を発揮し、その負荷が筋組織の許容範囲を超えることで筋線維が損傷し、肉離れにつながると考えられています。

肉離れは「筋肉と腱の境目」に起こりやすい
肉離れというと筋肉の真ん中が切れるようなイメージがあるかもしれません。
しかし、実際には筋肉と腱の境目である「筋腱移行部」は肉離れが起こりやすい部位の一つです。
その理由の一つが、筋肉と腱の「伸びやすさ」の違いです。
筋肉は比較的伸張性に富む組織であるのに対し、腱は強固で伸びにくい組織です。そのため、同じように引っ張る力が加わっても、筋肉と腱では変形する程度に差が生じます。
このように、伸びやすさの異なる組織が連続していると、その境界部分では変形の差によってひずみが大きくなり、局所的に負荷が集中しやすくなります。
これは柔らかいものと硬いものをつないで両側から引っ張ったときに、その境目に負担がかかりやすいのと同じようなイメージです。
そのため、伸びやすい筋肉と伸びにくい腱がつながる筋腱移行部は強い張力が加わった際に負荷が集中しやすく、肉離れの好発部位の一つと考えられています。

肉離れでみられる筋肉の状態|筋肉が完全に切れているとは限らない
肉離れというと筋肉が完全に切れて離れてしまう状態をイメージするかもしれません。
しかし、実際には肉離れでみられる筋肉の状態には幅があり、必ずしも筋線維が完全に断裂しているわけではありません。
軽度では、画像検査でも明らかな筋線維の断裂として捉えにくく、筋肉の硬さや痛み、筋機能の低下などが主体となることがあります。
そのため、本人が肉離れを起こしたことに気づかず、単なる筋疲労や「張り」と考えている場合もあります。一方、構造的な損傷がみられる場合にも、その程度には幅があり、筋線維の微細な損傷から部分断裂、さらに重度では完全断裂に至るものまで、さまざまな状態がみられます。
そのため、これらを単純な段階として明確に区切ることはできませんが、肉離れでみられる筋肉の状態を理解しやすくするため、以下のように分けて考えてみます。
✓ 軽度の筋損傷
軽度では明らかな筋線維の断裂として捉えにくい場合もあります。痛みのほか、筋緊張の亢進や局所的な硬さ、伸張性の低下、筋力低下などがみられることがあります。
✓ 筋の微細損傷
一部の筋線維に微細な損傷が生じている状態です。大部分の筋線維の連続性は保たれており、構造としては概ね維持されています。
✓ 筋の部分断裂
筋線維の一部が明らかに断裂している状態です。完全には断裂しておらず、連続性が保たれている部分と断裂している部分が混在しています。一般に損傷範囲が大きくなるほど、疼痛や筋機能の低下も強くなる傾向があります。
✓ 筋の完全断裂
筋線維が完全に断裂し、筋肉の連続性が失われた状態です。強い疼痛や著しい機能障害を伴うことがあります。
このように、「肉離れ」という名称であっても、必ずしも筋肉が完全に切れて離れているわけではなく、その損傷の程度や現れ方には幅があります。

肉離れはどのように判断する?
肉離れは筋肉の損傷であるため、一般的なレントゲン検査では損傷した筋線維そのものを直接確認することはできません。
また、超音波検査やMRIなどの画像検査が行われる場合もありますが、肉離れは必ずしも画像検査を行わなければ判断できないけがではありません。
さらに、肉離れを起こしていても歩行できる場合があるため、「歩けるから肉離れではない」とは限りません。
そこで、肉離れを判断するうえで重要になるのが、下の図に示すような症状や所見です。
けがをしたときの状況や痛みの場所・程度、内出血や腫れなどの外観、押したときの痛み、筋肉を伸ばしたときの痛みなどを総合的に確認することで、肉離れの可能性や損傷の状態を推測することができます。

肉離れを起こした筋肉はどのように修復される?
筋肉が損傷すると、損傷した筋線維そのものの再生が進むとともに、損傷部にはコラーゲンなどを含む修復組織が形成され、断裂した筋肉の両端(断端)の間をつないでいきます。その後、こうした組織は時間をかけて再構築され、損傷部の構造も徐々に整えられていきます。
このように、肉離れは時間の経過とともに修復されていきますが、ここで重要になることの一つが、損傷した筋線維がどの程度断裂し、その両端(断端)がどのくらい離れているかです。一般に、断端間の距離が小さければ、修復を必要とする範囲も比較的小さくなります。一方、断端が大きく離れた状態では、その間をつなぐために、より広い範囲で修復が必要になります。
コラーゲンなどを含む結合組織は損傷部をつなぎ、修復していくうえで重要な役割を担いますが、こうした組織が過剰に形成され、瘢痕として残ると損傷部が硬くなり、筋肉本来の柔軟性や伸張性が低下することがあります。
そのため、痛みが軽くなったことだけをもって、筋肉の機能が十分に回復したとは判断できません。
だからこそ、肉離れは「時間が経てば治るからそれでよい」というものではなく、損傷した筋肉がより良い状態で修復される環境を整えていくことが大切です。

なぜ肉離れでは圧迫や固定を行うのか
肉離れに対する圧迫や固定は、上述した筋肉の修復メカニズムを踏まえると、損傷部への過度な負荷や疼痛を伴う動きを抑え、損傷の悪化を防ぎながら回復段階に応じて徐々に運動負荷を戻していくための保護として重要になります。
ただし、固定といっても単に患部を「動かさない」ために行うものではありません。
損傷の程度や回復状態に応じて固定の程度を調整し、必要以上に動きを制限しないようにしながら、回復に合わせて少しずつ動きや負荷を戻していくことも大切です。
筋肉は身体を動かすたびに収縮したり、引き伸ばされたりする組織であるため、受傷時の断端間の離開が小さくても、その後の日常動作によって損傷部には繰り返し負担が加わります。
そのため、軽度の肉離れであっても、損傷の程度や回復状態に応じて患部を適切に保護し、修復しやすい環境を整えていくことが大切です。

まとめ
多くの肉離れは時間の経過とともに修復されていきますが、大切なのは、損傷した筋肉がどのような状態で修復されていくかです。
そのため、損傷の程度や回復状態に応じて患部を適切に保護しながら、回復に合わせて少しずつ動きや負荷を戻していくことが大切です。
肉離れはスポーツ活動だけでなく、日常生活の中でも起こり得る身近なけがの一つです。
こうした肉離れの仕組みや回復過程について知ることが、肉離れでお困りの方にとって、適切な対応や治療につながる一助となれば幸いです。
